海外博士課程からの進路の話
こんにちは、管理人のおもちです。就活を終え、気ままに文章を書ける幸せに浸っています。どのみち論文書きが後ろに控えているので束の間の休息です。
前回の記事でも少し触れましたが、以前日本企業から内定をいただけたため、博士課程を修了できたら民間に行く予定です。今回は海外で博士課程をした後の進路の話になります。正直悩む内容は日本国内であっても変わらなかったと思うので、そこをつらつら書いていくつもりです。
前置き
実はこの記事をほぼ書き上げたあと、ふと、3年前の自分が何を考えていたんだろうと思ってブログ記事を見返したのですが、驚くほど人間性が変わっていなくて笑ってしまいました。やっぱりずっと何かに悩んでますね笑
あの頃は修士課程でほとんど研究をしていなかったのも相まって、研究というものに気後れしていました。"研究向いていないのに博士進学はアリなのか“だったり“研究しなかった修士の振り返り“とかいう記事を見つけました笑。スイスでの博士課程でがっつり3年間研究に打ち込めて幸せなことを考えると別に研究向いてないわけじゃないと思うぞ、と言いたいです。
ただ過去の私も指摘していますが、修士での就活は本当に無駄だったよねと思います。ESうまく書けない人間が通るわけないんだなあ….。おかげさまで、博士就活では意味のある悩み方ができて就活をほぼ最短で終わらせることができたので、あの頃の足掻きにも感謝しています。
今回は(も)、かなり赤裸々に進路/キャリア選択の話をしています。長すぎて就活そのものの記事とは分けました。アカデミアでポスドクするか、民間就職するかで迷っている人に一例として届けられたらと思います。
海外民間就職か?海外ポスドクか?日本民間就職か?
はい、タイトルの通りの3択です。日本アカデミアでポスドクをするつもりは微塵もありませんでした。というか元々あまり乗り気でなく、少し話だけは聞いて、希望とは違うかなと思ったのが大きな理由です。日本国内でのポスドクと海外ポスドクを比べた時に後者のメリットが前者のメリットを内包すると感じ、選択肢から外しました。
就活を始める前からキャリアについてボスと面談しないといけない機会があり、そこで色々と自己分析をした結果、やはり自分は研究にしかあまり興味がないなあという結論に至りました。少なくとも現段階ではまだ研究をしていたかった。そのため研究職という観点から次の進路を考えていました。
キャリア・待遇・プライベート面での比較
最終的には日本での民間就職が私にとってのメリットを最大化できると思ったわけですが、考えたこととしては大きく分けて、キャリア、待遇、そしてプライベートの3つです。
選択し得るキャリアの幅を保ちたい
まずキャリアに関しては、もともとどこかのタイミングでアカデミアから民間に移りたいと思っていました。アカデミアの重要性を認識しつつ、持続可能性がよくわからなかったのが本音です。
そのため、キャリアとしては「海外ポスドク→どこかの民間→?」か、「海外or日本での民間→?」というイメージでした。その上で、最初に選ぶキャリアとして実現可能性が高く、かつその後のキャリアにもつながりそうなのはどこか考えていました。
[ 海外ポスドクについて ]
博士卒とポスドクを経た先での民間就職を考えると、博士卒の方が日本では新卒カードを使える分有利であり、EU圏ではエントリーレベルですら経験者採用になるためポスドクの方が有利であると理解しました。それを踏まえると、専門性がドンピシャかつその国の言語をビジネスレベルで使えるようにならないとポスドクを経た先のポジションがないなあと思ってしまいました。それってかなり博打では?と尻込みします。
もちろん海外でポスドクをするメリットはキャリア面でもあると思います。国際的な環境で色々な国の人と働き、そこで学生と共にプロジェクトを行うようなマネジメントの機会や、共同研究などを行えればそれ相応の実績になるはずです。最終的にはアカデミアでも民間でも好まれるような実績づくりもできるかもしれません。
一方で、かなりラボやその時々の環境に依存する、というのが正直なところです。上記のメリットはかな〜りうまく行った場合にしか手に入らないものだと思います。どんなに事前に下調べしていたとしても、そのラボの状況というのは内部に入ってからしかわからないというのを皆ご存知のはずです….。
[ 海外民間就職について ]
これに関しては、博士卒の非EU民かつEU出身配偶者なしで民間行くのはまあまず無理だわ、という結論に達しました。というか選ばなければ入れる可能性もありますが、やりたい仕事はまず見つからない状況です。
上記でも触れましたが、ここスイスおよびEU圏ではエントリーレベル(新卒的ポジション?)でも経験者と競わなければなりません。現地の修士学生であっても、"とにかく最初の会社はどこでもいい。そこで経験者となって次の会社を探す"と言うレベルです。
加えて、ほとんどの会社ではその国で使われる言語のネイティブレベルの運用能力が求められます。特にここスイスでは、修士以上の高学歴ともなると大体の人が3ヶ国語以上を(レベルは様々とはいえ)操ります。そこに日本語と英語ちょっとのドイツ語の民が参入できるか?いや無理、と思いました。
運良く採用されたとして、マネージャー職などの上級職になるにはやはり言語・人種の壁が大きそうです。この点についてはポスドクおよびテニュアトラックを敷いているアカデミアの方がオープンかなと思います。
また、昨今のどこぞの国での大統領が移民やサイエンスを冷遇していることも相まって、EU出身のサイエンティストが某国から出戻りしています。アカデミアも民間も、市場が買い手有利になっている模様です。これは無理筋だなあと思い、選択肢から外しました。
[ 日本民間就職について ]
海外での民間就職に比べ、日本での民間就職は博士卒であっても新卒枠があるため「枠が完全にない」という事態は避けられます。今後どうなるかは不明ですが、日本国内の就職状況も就職氷河期に比べれば全く悪くなく、売り手市場感すらあります。
また、「博士は日本企業から好まれない」、という言説も見聞きしましたが、蓋を開けてみれば博士向けの採用イベントも多くありました。確かに私のいるバイオ業界は需要に比べて供給過多なのだな、というのは理解しており、バイオ人材にとってはどのみち厳しい戦いです。
「海外と比べて博士は冷遇されている」という話もありますが、一部本当で一部真実じゃないなと思いました。少なくともスイスでは、年を重ねて給与レンジも高くしなければいけない博士卒の採用が敬遠されることもあるようです。ただ、内部での昇進が博士卒の方が早かったり給料が違ったりという面では、日本企業でも給料に差があるところはそれなりにありましたが、海外の方がその差が大きいイメージです。
先ほどバイオ人材は供給過多という話をしましたが、これは割と世界共通のようです。それでも日本での就職は日本語という言語障壁のおかげで競合が少ないです。説明会で「英語での面接でもいいですか?」という参加者からの質問もありましたが、そこで参加していた企業はどの企業もNOでした。日本語話者のサンクチュアリじゃんと思いました。
今後のキャリアに目を向けたときも、民間企業で一定年数以上働くということが日本でも海外でも市場から好まれそうだ、という感覚がありました。また、研究職であればある意味手に職的なところがあるので、何かの都合で海外に行かなければならない時もwetラボとかで雇われることができたりしないかな〜と思っています。そんなに甘くはないかもしれない。
というわけで、この先のキャリアの広がりを考えた際に、自分の可能性を最も広げることができ、かつ、それを一番成し遂げやすいのが日本での博士向け新卒就活でした。
海外の方が待遇が良い、が、しかし。
待遇に関しては、やはりスイスならびに近隣諸国の方が給料がいいです。海外ポスドクは国を選べば年収1000万円は超えるので、給料の良さという点では日本の民間就職に勝ります。
日本で新卒で入る予定の会社のお給料は、今博士課程でもらっているお給料よりも間違いなく低くなります。ただ、福利厚生含めて考えたり、国としての制度の良さ環境の良さを考慮するとかなり肉薄してくる印象です。
どなたかが言っていましたが、「日本という国に住めることが最大の福利厚生」は日本人にとっては今のところ本当だと思いました。女性としての生きづらさも多いんですが、それが東アジア人としてよその国で暮らす生きづらさと比較するとどっちが上かと言われるとうーーーんという気持ちになります。とりあえず職場環境は選ぶべきです。
また、海外でのポストが民間であれアカデミアであれ不安定なことを考えると、この先の人生プランを作る上で不確定要素が多すぎるなと思いました。そのため、日本での民間就職は安定性の点でアリだと思いました。その不安定さ&不透明感に対するメリットが、私にとっては給料の良さと日本の政治のカオスを外から眺めていられるという2つだけ、となると、日本民間にわずかながら軍配があがる……いやどっちもどっちかな…..
プライベートも考えねばね
さてキャリアの話は終えて、プライベート方面です。こちらはかなり人によるかなと思うのですが、パートナーが日本にいて安定した職についていると、なかなか日本以外の選択肢は狭まるかなと思います。
前々からキャリアについては話しており、海外ポスドクも視野に入れている旨を伝えていました。パートナー自身は「やりたいことをやったらいいと思う」と言ってくれていて、謎の安心感と楽観性を持って博士課程で研究していました。
しかし、博士を終える時には28-9歳になっており、さすがにそろそろ身を固めるか〜とは思っています。あとは両親がリタイアの年齢になってきて、ヨーロッパ-日本間の距離が少し不安になったというのもあります。ただプライベートに関しては調整が効く(どうにかなる)ので、海外or日本でのポストを考える上での大きなファクターにはなりませんでした。
最後に、海外民間をためらった理由として、「その国で根を張って長く生活する覚悟」は当然に必要な気がしました。そして私にはそれがありません。家族もパートナーも日本にいると、そこの気力を繋ぎ止めるものがないんですよね。ポスドクとかの方が年数が決まっている分気楽な気がしました。
比較まとめ
以上、キャリア・待遇・プライベートの3つの面から考えて私は日本の民間就職が最も適していると思いました。
キャリアとプライベートの面で日本に軍配が上がり、待遇は正直どっこいどっこいでした。ただ総合的に考えると日本の民間就職が自分の希望に最も近かったです。
人によっては研究テーマの自由度が先に来たり、パートナーや家族が海外にいたり、海外で生きて行きたいという熱意だったりがあると思います。そこの優先順位をよく考えておくことが納得のいく進路決めになるんじゃないかと思いました。
あとがき
進路決めって本当に難しいですねえ。私は日本の修士課程で進路に悩んでいた時、あまりにも自分の軸が決まらなかったのでえらい苦労しました。今から考えるともうスイスでなくてもいいから、どこかの海外で博士課程をする以外の選択肢なんてなかった気もします。人間わかんないですよね。
つらつらと書きましたが、ちょっとでも共感したり参考になると思ってくれたりしたら嬉しいです。
それではまた〜