研究に向いていないのに博士進学はアリなのか

2022年11月18日

こんにちは、管理人のおもちです。
日本で博士進学を検討したことのある人で、いまいち研究に向いていない気がするけどどうしよう….と考えた人は意外に多いのではないかと思います。

私も、研究に向いていないと断定するのは言い過ぎですが、少なくとも自分が研究に向いているとは思わないです。さらに言えば、仮に無事に博士課程を修了できたとして、ずっと研究を続けていく意思は今のところありません。博士課程に進学予定のくせにこのモチベーションで一体全体大丈夫か、とご心配をおかけしそうですが、私自身が一番そう思います笑。とはいえ、海外大学院にアプライする時点で"博士進学という選択もアリだ"と思ったのは事実であり、今回はその理由について書いていきます。

研究の向き不向きは実際わからないらしい

が、それでも向いていない気がする。(そんな状態で博士進学をよく志そうと思ったな…)

結構多くの人が研究者の資質について悩んでいる

さて、修士の中盤で進路に迷い、研究を続けるかどうかで頭を悩ませた私は、困ったときのGoogle先生ということで、"研究 向いていない 博士"とカタカタ打ち込みました。

business person working from home.

そうしたら出るわ出るわ、検索結果、約5,720,000件。そんな皆思うもの?と苦笑いしつつスクロールして片っ端から開いていきました。
実際、多くの企業研究者や博士課程の学生、ポスドク、PIの方々が考え得る研究者の資質や研究に向いている人/いない人の特徴などを書いています。また、アカデミアのルートにいる人だけでなく、企業で研究を続けた人、辞めて方向転換した人、どちらもその人の経験に基づいた研究者像をもっています。

各個人の研究活動の振り返りはそれだけでとても興味深いです。特にバイオ系で研究者の資質について悩む人が多いように見受けられたのは、人数も多く直に産業につながらない可能性の高い分野であるからなのでしょうか。

読み進めていくと、とても納得できることもあればいまいち腑に落ちないこともあり、これは所属するラボなどの環境によるところも大きいのでは?と思うようになりました。各個人の思う研究に向いている人の特徴は、共通項もありますがそうでないことも多いです。個人の経験を辿ることは示唆に富むものでしたが、それを活かすには自分自身の経験をもとに考える必要があるようです。

何をもって研究に向いている、と思うのか

「研究」と一言でいっても、いわゆる実験などの手を動かす業務から、データの整理、論文の執筆&投稿、試薬管理といった日常の細かい業務、ラボメンバーのサポート、学会への参加など、いろいろあると思います。そのため研究者の中にも、実験そのものに優れている人もいれば、視点が鋭くデータの本質を見抜ける人、社交性を活かして共同研究で成果を上げる人などさまざまでしょう。

だからこそ、学部から修士までの3年ほどの時間だけで一概に研究が向いていないと断じることができない、という意見もわかります。そもそも研究が向いている、というのを何をもってしてそう思うのかというのも大事な点です。そしておそらくその視点は、向いていると思う/思われる人の性質の中に、共通する部分とひとりひとりで異なる部分があると思います。そのため、自分が研究に向いているかどうかを考える上では、あの人は研究に向いている」と見て思う他者の特徴を挙げ、その特徴にどれほど自分がもっている要素があるかを考えるのが良いのではないかと考えるに至りました。

というのも、結局向いているかどうかを判断したいと思うくらい不安を抱えた人であれば、本人の資質ももちろん周りの環境にも影響を受ける可能性が高いです。特にそんな資質について考えずに研究に全集中している人はきっと考えも及ばないでしょうし…。その意味では、私のような人間は、周囲に研究に向いてそうな人物を見つけ、その人の特徴から考えてみることが手っ取り早いのではないかと思ったのです。

研究のロールモデルは博士課程進学者だけではない

私の場合は、学部と修士を過ごした研究室に博士課程の先輩が常にいる状態でした。少なからず、指導教官や博士課程の先輩たちを研究者の身近なモデルとして捉えているため、認識している研究者像が狭くなっています。当然のことながら、研究に向いていると自他ともに認識し、バリバリ成果を出している人の中にも修士卒で研究職になったり、はたまた別の道に行っていたりする人も多くいるでしょう。

博士課程に向いている人、というのは研究に向いている人とは異なります。そのため、自分のラボや周りの博士課程進学者だけを見て、この人のようにならなければならないと思うのは早計だと思っています。日本であれば修士卒の企業研究者は数多くいるので、知り合いであればその人の特徴を考えたり実際に話を聞いたりして、研究者像のイメージを持つこともできるはずです。

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私もそうですが、研究に向いているかどうかを知りたい、というよりは次のステップでやっていけるかどうかを知りたい場合の方が多いのではないかな?と思います。それを知るには、自分の居たい環境と似た状況にいる人の中で、自分が研究を行う上で参考にできそうだ、と思う人を探すのが良さそうです。

私の周りの博士課程進学者

博士課程進学を考えるにあたり、当然周りの博士課程の学生やポスドクを参考にしました。研究室の規模は小さい方だと思いますが、私が学部の時点で博士課程の先輩は2人、修士になってからは4人がラボで研究していました。男女の内訳は1対1で、修士から同じ研究室であがった先輩2人はDC1をとる強者です。皆さんそれぞれ異なる性格をしていますが、その先輩たちを見ていてこの2点は共通しているように思いました。

・ストレスを感じることがあるとはいえ、研究そのものを苦に感じていない
・なにかしらこだわりがある(ある意味頑固)

一つ目が、研究に向いているか/いないかの最低ラインではないかと思います。逆に二つ目に関しては、この日本の状況で博士課程に進学する人のメンタリティであって、企業研究者に多いわけではないようにも感じます。
ちなみに今まで見たサイトの中で、最も多くの資質をあげていたのがこのサイトです。お時間がある方は覗いてみてください。私が思う「研究そのものを苦に感じない」という資質は、このサイトでの10番目にある「研究に没入し、解決すべき問題に集中し続けることができる」に対応すると思います。

上述したように、一言で研究といってもやるべきことは多岐にわたります。その業務の全てに優れている人はなかなかおらず、むしろ何かしら難点を抱えている人が多いのではないでしょうか。そのため研究活動の中で、不得意分野でストレスを溜めることは往々にしてあると思います。ただ、研究者として論文を出すことは最大の使命ですから、論文を出すためにも実験をして試行錯誤し、データから考察してまとめていくという仕事は必須です。最低でも意味のあるデータを取るための一連の流れを苦に思わない人でないと、厳しいのではないかと思いました。

二番目の、こだわりに関しては偏見かもしれないと思いながら書いています笑。しかし、皆が皆博士課程進学をするのであればともかくとして、私のいる農学分野はそもそも学部卒も2〜3割、その後修士に行った人のうち9割以上は就職します。そして言わずもがな、バイオ系の博士学生の就職はめちゃくちゃ厳しいです。その状況を知った上で博士進学するのですから、他の人の目を気にしたり普通の流れに安心感を抱いたりする人ではないんです。皆どこかしら(それが研究と直接関係なくとも)こだわりがあり、それに抗えずに博士進学をしています。(まあ、就職活動が無理すぎたとかなんとなく勧められるがままに、という事例もあるので一概にはいえません…。)

それでも博士進学を決めた理由

私は研究に限らず割とどの分野でも、コンスタントにやるべきことを苦に思わないタイプです。wet系の比重が大きいラボだったので学部でも修士でも実験量(作業量)自体は多いこともありましたが、それらに対してネガティブな感情を抱くことは全くありませんでした。こだわりに関しても、研究に関するもので強いモチベがあるのかと言われると微妙ですが、親から頑固だ頑固だと言われてきたので多分性格的には博士進学しそうな人間だったかもしれません笑

資質に関しては最低ラインがあったとして、博士課程進学をする道でなくてもいいだろう、というのはその通りです。実際、修士の間はビジネスプランニングのプログラムに参加したりメンターの活動をやってみたりと、研究以外のことに手を広げていました。その裏には、研究が好きで好きで仕方がない、という性質にはどうもなりそうにないと思ったことや、私の得意なことを活かせる場を見極めるために多くの機会を得てみようという気持ちもありました。

こういった修士の間の経験と就活で悩んだことを踏まえた上で、私はそれでも博士進学を決めています。その理由はいくつかあり、自分の中である程度筋書きが通ったためこの道を選ぶことができました。

自分の能力値の中で、高出力のものはなにか?

高出力を出せる能力を、自分の中で把握しているかどうかは進路を決めるにあたりとても大事です。指導教官からも学部4年生の時の面談で同じ内容を話したことがあり、自分これは強いな、と思う部分を早くから見出しておくとスムーズだよと言われました。

自分の能力を考える際には他者との比較をしがちなのですが、最終的に人と比べたところで能力を活かす環境にいられるかどうかや運も大きな要素になってしまいます。また、どんなに他者の能力に憧れても、それが自分の強みを消すような能力であれば伸ばす必要はないでしょう。自分の内側のみ考えて、どこが最も強い部分なのか、そしてそれを補強するような能力は何かを考えます。

20年近く生きていれば、強みはさすがに個々の経験に表れています。強みの判断については経験を掘り起こすのが一番で、その時何に喜びを感じたかで大体判断できるはずです。

わたしの場合は ”逆境でもなんとかする力”が一番大きいです。さらに性格的には1人の環境よりもチームの中の方が活躍できる傾向にあることも理解しています。勝てそうにないチームをどうにか勝てるように尽力することに楽しさを見出すことが多いです。だからこそ、ひとりで進めることが多い研究職よりも、誰かと協力したり提案したりするビジネス職のほうが向いている可能性も高いと思っていました。
博士課程に進学することを非常に迷ったのも、この性質を無意識のうちにある程度認識していたからだと推測しています。

自分の興味/関心がどこに向かうか

興味や関心の向かないところで仕事をすることは、かなり辛いことでしょう。そしてその方向性は、割と早い段階で違和感として表れると思っています。

就活の際に何を血迷ったか不動産会社のお誘いを受けて三次面接まで受けてしまったのですが、あの時ほど意味のない時間はなかったです…。面接の途中で “無理〜〜〜" となって途中で辞退してしまいました。私の場合は、「分野」が一つのキーポイントで、不動産や金融といった業界は全く興味がなく、むしろ苦痛だったようです。

逆に、分野や業界には全くこだわりのない人もいます。自分の成長が一番目に見えるところ、成果がわかりやすいところ、など業界にはあまり左右されない価値観を持っている場合、むしろその会社で自分が何の仕事をできるのか(職種?)が重要になってくるかもしれません。そういった人が仕事を業界で分類してしまうと、選択肢を狭めることに繋がりかねないと思います。しかしここにおいても、自分が何に興味や関心があり、それはどんな仕事にありそうかを考えることが大事です。

私の場合は、食に関わる分野及び健康に関わる分野が最も大事で、それらとは異なる階層に教育関連の分野に対する興味があります。そしてそれらを取り巻くように、高度な技術やそれに至るまでの積み重ねに対する敬意を持っています。
食事や健康に関しては、小さい頃から食べ物に強い関心があったこと、そして人間の本能に直接訴える美味しさ(糖分や脂質マシマシなど)ではなく長く楽しめるように健康的な食事を考えるようにという食育のおかげで、食事と健康とが重なる分野に最も大きな関心を抱くようになりました。
教育についても、家庭教師やメンターなどを数年間行って、人の持っている魅力を引き出して納得できる方向に向かうサポートをすることが、とても意義深いと感じるようになったことがベースにあります。人の良さは本当に人それぞれだと思いましたし、それを本人が楽しめる方向に向けていくことができれば幸せに感じました。

こういった経験をもとに関わりたい分野が明確であることに気がつき、まずはこれらの分野の中で仕事をしていこうと思うに至りました。

興味/関心を抱ける場所で、高出力の能力値とそれを支える能力を上げるには

高出力の能力は、活かせる場所でなければなかなかその威力が発揮しづらいものだと思います。丁寧で緻密な忍耐を必要とされる作業が得意な人に、大まかな段取りを組んで周りを巻き込みながら土台を作っていく仕事があっても能力を活かせずに終わってしまうはずです。ですから、本来であれば自分の得意領域を活かせ、かつそれを補強し支えるようなサブの能力を磨ける環境がベストでしょう。

現時点での私の目標は「人が自立して生きられる社会に貢献すること」で、これを健康と食、教育の分野のどれかに関わりながら達成していきたいと思っています。どの分野においても関わり方はさまざまです。教育分野ひとつとっても、学校の教師・塾講師・塾経営・文部科学省の役人・NPO・大学の講師等々…学習は生涯続けられるものなので、どの年代を対象とするかによっても性質が変わります。それが3分野もあれば毎回全てを網羅できる仕事を選べるわけではありません。

これらの分野に対し、修士卒の人間として最初にどのように関わるかを考えたとき、まず考えたのは現時点で一番近く、それでいて客観的に考えて難易度が高い道でした。それが博士課程進学です。わたしの今までの経験は、おおよそ勉学に集約されており費やした労力と時間は他の道と比較にならないものでした(もちろん研究は勉強とはまた違うものですが)。そしてそれらの経験が少なからず活かせるのが研究分野だと考えました。能力的には研究以外に活かせる部分が大きそうだったので、一度研究から離れると二度と戻ってこない自信(?)があったのです。そして研究に関わる力を伸ばすとともに、自分をブランディング化しようと思った際にそのブランドを高められそうだったのが海外大学院への博士課程進学でした。

その上で、自分の目標を達成し世界のどこにいても価値を提供できる人間になりたいと思い、これから磨くべき能力を3点に絞りました。
・専門性の高さ
・国際感覚の強さ
・チームを導く能力

これらは全て、私が最も得意とする"なにがなんでも何かしら成果を出す"という強みを支えていく能力です。博士課程の学生としてスイスに留学し、今後3〜5年間経験を積むことでこれらを向上させていきたいと思っています。半年ごとの計画とその達成度を測る指標も必要になってくると思うので、また記載していくつもりです。

おわりに

海外大学院の博士課程への進学を検討した当初、最も不安だったのは自分の得意領域とは異なることでした。つまり、向いていなさそうだということです。しかし、いくつかの道を考えた時に、現時点で難易度が高いものの最も可能性が開そうな進路でもありました。そのため、最終的に進学を志してアプライすることに決めたのです。

現時点でM2のため、まだ博士課程の実情を理解していないこともあると思います。しかし今の時点で考えていたことを記録として残しておき、後で振り返ってみたいです。想像とは違うこともあれば似ていることもあるでしょう。M2の時はこう思っていたけど実はこうだったよ、と言えるように日々を過ごしていきたいです。

それでは長くなりましたがここでおしまいにします!
博士課程での短期目標や計画については、後々書いていきたいと思います。