コロナ禍での弾丸スイス渡航−3

2021年12月17日

一人で海外に行ったこともないのにコロナ禍で弾丸スイスツアー(面接)を決行した話

前回はスイス⇄日本の空路について書きました。
→コロナ禍での弾丸スイス渡航-2:https://swiss-doctor-ryugaku.com/post-57/
今回はスイス滞在の概要とラボ面接をメインに書いていきます。

私がスイスへ日本を飛び立ってから帰国するまでは5日間。実際のスイス滞在は2泊3日でした笑
周りからは短すぎるとか出張かなどと言われました。私もそう思います…。時差ぼけを感じる間もなく帰国してきました。

スイスでの2泊3日では何をしていたのかというと、「ラボ面接&スキマ時間での観光」です。
渡航前にオンラインラボ面接をして対面面接に呼んでくれた教授のラボと、オンライン面接はしていなかったけれどメールを送ってラボ訪問を了承してくれたもう一人の教授のラボへ行きました。正確には、前者は教授の立場ですが後者は助教の先生です。ですがスイスでは若い先生でもしっかり自分のラボを持ち、運営している印象でした。

滞在1日目:昼すぎにチューリッヒ到着→帰国用のPCR検査→ホテル→ホテル周辺の観光+翌日の面接準備
滞在2日目:午前中にラボのあるベルンへ+ベルン観光→昼〜夕方にかけてラボ面接→チューリッヒへ帰還
滞在3日目:チューリッヒのラボでの面接→チューリッヒ観光→夕方に帰国

このような日程でよく体力がもったなと思いますが…。しかもすごく疲れていたはずなのに、滞在2日目〜3日目の夜は寝られていません笑 神経が昂っちゃったんでしょうね…。

ラボ面接 in Bern

さて、1個目のラボ面接は計6時間半の長丁場でした。メンバーとのランチ、プレゼン、メンバーとの1on1 ミーティング、そして最後に教授との1on1 ミーティングです(端的に言って死ぬかと思いました)。

元々オンライン面接の際に教授には修士での研究内容に関する15分間のプレゼンを行っていましたし、ラボメンバー5人程度と面接候補者3人での学生だけの交流会もあったので顔を知っている人も多い状態ではありました。とはいえ教授にもメンバーにもオンラインで顔を合わせたのは1回だけ…。全てがゼロからと言っても過言ではありません。対面面接ではラボメンバーへも修士での研究を発表してほしいと言われたので、プレゼンを少しブラッシュアップしていきました。

< プレゼン >
まずプレゼンでは、15分間研究の発表をした後に40分近くに渡る質疑応答がありました。私の日本のラボでは教授の質問→博士課程の学生の質問→修士課程の学生の質問という順番のような暗黙の了解みたいなものがありますが、この時のプレゼンでは皆思いついた質問をどんどん投げかけてきました。私の修士までの分野が農学系であり、向こうのラボが理学(~医学)系なこともあり、異なる分野という視点から興味を持って聞いてもらえたような気がします。使用している手法の質問から産業応用に向けた質問など多岐に渡ることを聞かれたため、質疑応答に備えておいてよかったと思いました。
なんとなく効果的だった(雰囲気が良かった?)のは、「先行研究をしっかり調べているか」「スライドの準備」だったかなと思います。"この実験ではこういった結果で、先行研究でこういう研究結果が出ているからこのように考察できる"とか、"今回はこの手法を用いたが、他の研究では他にこのような手法を用いている"などを言えたのは良かったです。欧州の修士の学生は実験や研究が中心ではなくコースワークが主流のため(研究は博士の学生の下やインターンで半年程度)、そこまで高いレベルは求められていないように感じました。この点はむしろ日本の修士学生にアドバンテージがありそうですね。(余談として、スライド送りの最中にTrashと称したスライド群が映り込んでちょっとした笑いを取れました)

< 1on1 交流 >
その後コーヒーを淹れてもらったりしつつ、ラボメンバーと1対1での交流機会がありました。博士課程での研究について話してくれる人もいれば、研究ではなく生活についての質問に答えてくれる人、指導教授(彼らのボス)の人柄について語ってくれる人もおり、全体的に非常に風通しの良いラボの雰囲気でした。オンラインでの交流会の際も、ラボメンバーが口々に"この研究室に満足している"と言っていたことと相違なく、とても良い印象を受けました。

5~6人のラボメンバーとそれぞれ話したあとにはもう5時近くになっていたのですが、最後に教授と1対1で今後想定される研究テーマについてディスカッションしました。今までほぼ関わってこなかった分野のことで、初歩的な質問もたくさんしましたが、そのどれもに丁寧に答えていただけたことやこちらの意見を尊重してくれる姿勢に安心しました。

ミーティングの後は実験室や他の研究室と共同で使用する部屋などを見て回りました。スイスの大学は軒並み国際的な評価が高いのですが、ベルン大学はそれほど研究に強い印象がなかったのでどうなのかなと思っていました。しかし実際に行って思ったのは、日本の大学に比べて全体的な設備の質が良いこと。ベルン大学は公立の大学ですがしっかりとした設備が整っていました。唯一大丈夫か?と思ったのはクーラーがないことです笑 スイスは夏でも25度くらいらしく、防寒には強いのですが防暑には弱い場所が多いです。流石に実験室にはあるみたいでしたが、普通の部屋にはないらしく暑くなると大変だと言っていました。このあと行ったチューリッヒ大学では全施設クーラーがあるとのことだったので、そこは設備の差ですかね…。
そして!私は初めて地下室にある核シェルターを見ました!本当にあるんだーという感想でしたね。段ボールが積み上がっており、普段は物置として使用しているそうです。重厚な扉は開きっぱなしでしたが、有事の際にはここに避難してピッタリと扉を閉めるのだと思います。すごいなあ〜

最後に、教授がお気に入りの場所があるというので後をついていきました。階段を上り最上階につき、さらにそこから通路を通って専用の鍵を開けます。

屋上からの眺め

なんと屋上からの大パノラマ!

教授は”ちょっと霞んでる〜もっとクリアだと良かったのに〜〜”と嘆いていましたが、とっても感動的な景色でした。ほぼ360度見渡せて、遠くの山脈も見ることができました。何より、こういう景色を見せたいとわざわざ連れて行ってくれることがありがたいです。

このようにしてスイスでの面接第一日目は終了しました。ベルンからチューリッヒに帰る途中でスマホ充電残量が5%になり、慌てましたがちゃんとホテルまで帰ることができました笑 面接とはいえ、ラボメンバーや教授が親切に対応してくれたのでとてもリラックスして訪問を終えました。

ラボ面接 in Zurich

長くなりましたが2日目はチューリッヒ大学でのラボ面接です。
その前日、ベルンから戻ってきてから夜は一睡もできていません笑 なぜか寝られなかったです。

特に眠くもないので、朝食をとったらすぐに出発しました。スイスの大学(というか欧州の大学)は日本の大学よりも敷地が様々な場所にあり、大学の施設と住宅が入り混じっていることもあります。チューリッヒ大学の敷地も飛び地ですが、私が今回行ったのはイルヘルキャンパスでした。ホテルからはバスで20分ほどですが、大学の敷地が広く迷いそうだったので1時間前に出発しました。
イルヘルキャンパスは丘の上を登っていくのですが、途中に公園(庭園?)があり緑豊かなところです。大学へ向かっているのにハイキングをしている気分にすらなります笑

< 面接 >
ここでの面接は、ラボメンバーに一通り実験室を紹介してもらったあと、あとから来た教授と1時間程度面接するという形。そのため前日のベルン大学での面接と比較すればとても短時間で終わりました。

ベルン大学同様、やはり設備はしっかりしています。チューリッヒ大学の方が大学の国際的な評価が高く、研究力があります。私が面接に訪れた研究室も、ノーベル賞を受賞したテーマに多大な貢献をしたことで知られている研究を行った助教の先生が率いていました。

前述したとおり、私はここの先生とはメールを通じて立ち寄らせてもらえるかどうか聞いてOKをもらっただけの関係でした。しかもこれまた専門分野が違います笑 そのためまず間違いなく面接には落ちるだろうなと思いつつ、スイスの大学の先生に自分の研究を話したり、サイエンスについて議論したりすることは人生の中でほとんどないだろうと思って訪問しました。相手の先生にとっては迷惑な話だろうなと思いつつ…。ダメ元でも行動することには価値がある!と思わないとやってられません。

ここでも修士の研究内容について前日同様発表し、先生から直接質問を投げかけられそれについて答えました。正直、答えづらい質問も多くこの日はタジタジでした…。そのあと、プロジェクターを使って先生が自身のチームの研究内容に関するプレゼンをしてくれました。事前に研究内容について調べて論文を何本か読んでいたので、こちらから質問をすることもできて良かったと思いました。

さて少し面白かったのは、この先生と私がスイスの博士課程プログラムに応募した経緯や日本の研究環境について話したことです。この先生の論文やそれに関する日本語のレビューを読んでいたので、この先生が日本の研究者と懇意にしているのを知っていました。会話の中でも、"(日本の)彼を知ってる?とてもいいライバルなんだよ"ということを言っていましたし、その関係性に満足して刺激を受けている様子が伝わってきました。さらに、"日本の研究レベルは高いのになんでスイスに来たいの?"という質問も受けました。日本の研究者と仲が良いこともあり若手研究者の日本での待遇の悪さを知っているようだったので、"確かに博士学生とかポスドクに厳しいよね。でも前に行った時はとってもいい国だと思ったよ"とフォローを入れていました笑 外国で日本のことを褒められると、ちょっと照れるけれど悪い気はしないです。

ほぼ飛び込み訪問でしたが、相手の先生が日本の先生と仲が良かったことや日本の学生がスイスの博士課程にアプライすることが珍しいこともあって、興味を持ってくれたのかな?と思っています。とはいえ面接の終わりには"なるべく分野の近い学生を採りたいんだ…"と言っていたので、まあ記念面接だなと思いつつ大学を後にしました。

面接を終えて…

最終的にはベルン大学のラボからオファーをもらい、来年度からそちらのラボへ行くことになりました🇨🇭
ベルン大学でもチューリッヒ大学でも、修士の研究内容を発表して質疑応答するという経験ができたのは大きかったです。やはり一定程度の英語力は必要ですが、スイスの大学院は教授・学生ともに外国籍という場合が多い上にスイスも英語が公用語ではないので、あまり英語でのやり取りが苦になりません。わからなかったら聞き返せばいいだけです笑

面接ということで本当にビビりちらしましたが、オンライン面接よりも対面面接の方がカジュアルな雰囲気もあり楽でした。欧米では特に以前の研究内容とのつながりを重視されることも多いので、研究内容が修士とつながっているに越したことはないです。研究分野を変えた私はこれで大苦戦し、結局オンライン面接希望申請を含めて8個の研究室に応募して対面まで行ったのが2つ、そして最後に1つの研究室からオファーをもらうというなかなかシビアな結果でした。人間あきらめないことが大事ですが、ちゃんと可能性のある方をとった方が良いのは確かです。

今後、きちんとした記事の形でアプライしたスイスの博士課程についても書きたいと思います。
それではまた!