修士からの海外進学:ヨーロッパの修士プログラム、EMJMDsとは

2022年2月24日

こんにちは、管理人のおもちです。
今回はヨーロッパのコンソーシアム型大学院である、Erasmus Mundus Joint Master Degrees (EMJMDs)について、その概要をご説明していきます。私が学部4年生の頃にアプライして合格を勝ち取ったものの、コロナで断念した大学院です。しかし今見ても内容がとても充実しているので、修士で海外大学院進学を考えている方はぜひ検討してみてくださいね。(博士課程での大学院進学に関してはこちらに記載しています)

Erasmus Mundus Joint Master Degrees (EMJMDs)とは?

https://www.eacea.ec.europa.eu/index_en

Erasmus Mundus Joint Master Degrees (EMJMDs)は、主にEU圏内の高等教育機関のコンソーシアムが共同で提供する、修士課程のプログラムです。EMJMDsは130以上のプログラムで構成されており、EUまたは近隣諸国の学術機関でコースワークや研究を行います。このプログラムには、EU圏内のみならず、世界各国から修士課程の学生が応募することができます。出願期間は各プログラムによって異なりますが、10月〜1月の間に出願締め切りがあり、9月からの入学になることが多いです。

特徴

EMJMDsは以下の3つの特徴を持つ海外大学院です。

1. コースワーク+インターンの2年間のプログラム
2. 最低2カ国かつ2校で受講できる、mobility track
3. 多様性に富む国際的な人間関係の構築

まず、日本の修士課程と同様にEMJMDsの修士課程はおよそ2年間です。ほとんどの場合、1年半はコースワーク、残りの半年がインターンや研究室配属になります。

そして、最大の特徴と言っていいのがmobility track制度。EMJMDsでは最初の1年間を過ごす大学と、2年目を過ごす大学を変えることになります。さらに研究室配属で3つ目の大学院のラボへ進むことも可能です。例えば1年目にフランスで学んだ後、2年目の最初の半年をスウェーデンで過ごし、2年目の後半をスペインの大学院ラボでの研究に費やすこともできるということです。複数の国や地域にまたがって学ぶことで、その土地の文化を知ることもできますし大学の違いを見て取ることもできるでしょう。

最後は海外大学院に進む際によく重要視される、多様な人間関係の構築です。EMJMDsは多様性を重んじるために、1つのプログラム内には各国籍で最大4人までしか入ることができません。そのため世界中の国や地域から人が集まることとなり、国際的な人間関係を築きたい人にとっては非常に魅力的なプログラムです。

参加国

参加国は"Programme Countries"と"Partner Countries"、"Third Countries"の3種類があります。“Programme Countries" はこの制度の要を担っており、主なプログラム実施国であると同時にさまざまな支援や制度評価、情報提供を行っている国々です。“Partner Countries"は27カ国のEU外の国々であり、このプログラムを支援する事務所が置かれています。最後に、“Third Countries"はAssociated to Programmeである国々(下記参照)とそれ以外に分かれています。

<Programme Countries>
オーストリア・ベルギー・ブルガリア・クロアチア・キプロス・チェコ・デンマーク・エストニア・フィンランド・フランス・ドイツ・ギリシャ・ハンガリー・アイスランド・アイルランド・イタリア・ラトビア・リヒテンシュタイン・リトアニア・ルクセンブルク・マルタ・オランダ・ノルウェー・ポーランド・ポルトガル・北マケドニア・ルーマニア・セルビア・スロバキア・スロベニア・スペイン・スウェーデン・トルコ・英国
出典

EMJMDsでは各国の大学がコースワークを提供していますが、基本的には上記のProgramme Countriesの中の国にある大学で講義を受けることになります。世界有数の大学もあり、例えば自然科学分野では、世界トップクラスのWageningen University(オランダ)、フンボルト大学(ドイツ)などもプログラムを構成する大学に名を連ねます。

<Partner Countries>
アルバニア・ボスニア-ヘルツェゴビナ・コソボ・モンテネグロ・アルメニア・アゼルバイジャン・ベラルーシ・グルジア・モルドバ・国際法で認められているウクライナの領域・アルジェリア・エジプト・イスラエル・ヨルダン・レバノン・リビア・モロッコ・パレスチナ・シリア・チュニジア・国際法で認められているロシアの領土・ジョージア・カザフスタン・キルギス・タジキスタン・トルクメニスタン(出典

<Third countries associated to the Programme>
北マケドニア・セルビア・アイスランド・リヒテンシュタイン・ノルウェー・トルコ(出典

日本などは上記の国々には属していないため、"Third countries not associated to the Programme"の枠組みで扱われます。しかしながらプログラムへの参加自体は関連しない第三国でも可能です。

EMJMDsのプログラム一覧

自分の興味のある専攻はこちらから調べることができます:Erasmus+専攻一覧

Erasmus+の専攻一覧&検索

画像のように、キーワードや国、単位、大学院名、分野、プロジェクトが選定された年、学生受け入れ年でフィルターをかけることができ、自分に適したプログラムを見つけることができます。
全プログラム数は2022年1月現在で、135もあるので分野でまずは絞り、その後大学院名や国などで選んでいくのがオススメです。

専攻分野

専門分野は以下の通りです。8つの大きな分野の中に、さらに10~30個のプログラムが入っています。

・Chemistry (CHE) = 化学系
・Economic Sciences (ECO) = 経済科学系
・Environmental and Geosciences (ENV) = 環境系・地球科学系 
・Information Science and Engineering (ENG) = 情報科学系
・Life Sciences (LIF) = 自然科学系
・Mathematics (MAT) = 数学系
・Physics (PHY) = 物理系
・Social Sciences and Humanities (SOC) = 社会科学系・人文科学系

私はライフサイエンス分野の人間なので、LIFを選択するとその時点で22まで選択肢が絞られます。海洋系、土壌系、薬学系などさまざまなプログラムが内包されており、私が当時applyしたErasmus Mundus Master Program in Plant Breeding (emPLANT)のような植物系もありました。

費用・奨学金・出願時期

費用

まずは全体の費用をみていきましょう。
参加費(授業料)は年間9000ユーロ(115万円〜120万円ほど)で、その他生活費や旅費などが別途かかります。

<参加費に含まれるもの>
・M1とM2で受講する大学の正規学生として登録されること
・授業料
・プログラムのカリキュラムに組み込まれた各HEI(Higher Education Institutes)の言語・文化コース
・図書館・研究所の利用
・学生管理、サービス、活動
・ビザ申請手続き等のサポート
・健康保険、賠償責任保険、傷害保険、アシスタンス保険(「学生生活」タブ参照)
・プログラムの全学生を対象とした合同インテグレーション・ウィーク(食費と宿泊費として300ユーロの追加負担が必要)
・夏季合同育種フィールドキャンプ
・クロージングセレモニー
・その他のすべての学費および管理費(例:参加した2つのパートナー大学からの学位発行、アクセス料、認定料、など)

<参加費以外の費用>
・渡航費用
・ビザ費用
・一部の個別モジュール関連費用(例:特定の書籍や資料など)
・生活費
・インテグレーション・ウィーク、サマー・フィールドキャンプ、クロージング・セレモニーへの1回の参加で、食費と宿泊費として300ユーロが必要。

プログラムごとに多少差異があるとは思いますが、基本的には以上の費用がかかります。
日本からEU圏はかなり遠いので、渡航費が高くついてしまうことや生活をゼロから築かなければならない点がネックとなりますね。

奨学金

上記の費用を工面することはなかなか難しいですが、EMJMDsには奨学金が付帯した枠があります。ここでは、日本国籍の学生が他の国へ滞在することなくダイレクトにEMJMDsのプログラムに参加する場合の奨学金額をみていきます。ちなみに公式サイトでは日本は第三国として記載されていますが、プログラムの国分類ではプログラム国を除く全国家を対象としたパートナー国として扱われている場合があります。

EMJMDsの奨学金で、以下の費用をカバーすることができます。
・参加費用(授業料および強制加入の保険料を含む:年間9000ユーロ
・旅費および設備費:年間3000ユーロ +一括1000ユーロ
・生活費:24,000ユーロ(1000ユーロ /月×2年間)

これだけもらえるのであればかなり留学が現実味を帯びる額ですね。
実際にこのプログラムに参加した先輩によると、初期費用は渡航費・寮費・生活用品等購入費・保険・交通費・ビザ代などを合わせて20万円弱、現地生活で月々かかる費用は寮費・食費・交通費・スマホ代・遊興費などで合計10万円弱とのことです。物価が国によって異なるものの奨学金が一定なので、物価水準が低いところであれば生活は楽になりますが北欧などは少し厳しくなるかもしれない、とのことでした。

出願時期

出願時期は9月〜翌年3月と幅広く、10月〜1月がほとんどです。一部のプログラムでは1次募集と2次募集があり、2次募集では2月〜3月まで募集がかかっている場合もあります。またその他に、奨学金有りの枠の募集と自費の枠で募集期間が分けられていることもあり、往々にして奨学金付きの募集は早く締め切られるため、計画的な準備が必要です。

有名大学が構成大学に入っている場合や、自然科学分野では医学・薬学系のプログラムで募集が早く締め切られる傾向にあると思います。特定のプログラムへの出願期間を逃してしまった場合でも、重なる分野のあるプログラムの締め切りには間に合っていることも。そのため、興味のあるプログラムはリストアップして締め切り日をチェックするのが得策です。

EMJMDsのメリット・デメリット

ここまでEMJMDsについて説明しましたが、一般的な海外大学院とは異なる点も数多くあったかと思います。実際に他の選択肢(一般の海外大学院または日本の修士課程へ進む場合)と比較して、EMJMDsの修士課程を選択する良し悪しを、実際に聞いた話を踏まえながらみていきます。

メリット

・奨学金に合格すれば、費用の心配なく海外修士の機会をゲットできる
Erasmus+の奨学金は破格の待遇です。学費免除の他にも、月1000€の給付、年間渡航費3000€、年間ビザ代1000€支給といった給付内容を得られることもあります。それ以外にもヨーロッパではさまざまな奨学金(民間以外にも、国や学内の奨学金が充実)があるため、何らかの奨学金を得られる確率も高まります。

・ダブルディグリーの取得
2年間で確実に2カ国、2大学以上で講義を受けることができるため、修了時にはそれぞれの大学院から学位をもらえます。ダブルディグリーをとることができる。さらに1大学、別の大学院で最終セメスターを受けることもできるのでトリプルディグリーも可能です。

・英語の習得と現地語の会得
当然ですが授業が全て英語であり、同級生とも全て英語で会話することになります(一部の授業では特定言語のみのこともあり)。さらに、現地語を学ぶ授業もあるため新しい言語に触れられ、1年間住むことで日常会話程度まではマスターできるようです。語学学校に通わずしてマルチリンガルになれる可能性が高まるというのもメリットですね。

・ヨーロッパ各国を自由に往来できる
国境のないヨーロッパでは、かなり自由度高く国同士を行き来できます。大学がない時期には友達と各国を巡ることもできますし、そこでさまざまな文化に触れられることでしょう。日本にいるとなかなか行くのに準備や費用が必要な国でも、ヨーロッパに入れば陸路でサッと行けてしまうのも魅力です。

・修士でのコースワークが充実
日本での修士課程は研究が中心ですが、ヨーロッパの修士はコースワークが主流です。学部と専門分野を変更することもそれなりにしやすく、そこから知識を積むこともできます。「学部で〇〇を学んだけど、少し違う分野の△△も学びたい」という人にとってはまたとない機会になるでしょう。

・国際的な人間関係を構築できる
Erasmus+プロジェクトでは、多様性を維持するために一カ国から来られる学生の数を制限しています。そのため通常の海外大学院よりも多くの国々から、さまざまなバックグラウンドを持った学生が来てクラスメートになります。国際的な環境やつながりを求めて来たのに、周りは現地学生ばかりor中国やインドからの留学生ばかり、ということにならないのは嬉しいですね。

デメリット

・研究経験は日本の修士がプラス
欧州の修士学生はコースワークがメインで、研究やインターンは最終セメスターの3ヶ月〜半年で大学のラボや企業で行うことが多いです。そのため、修士の修了時点で日本の学部卒と同じくらいの研究経験しか積めないということもあり得ます。研究に重点を置きたい人は日本の修士で学位をとったのち、博士課程で海外へ行くことを検討するのも良いでしょう。

・教授陣の英語力はまちまち
Erasmus+プロジェクトに参加している大学院は、世界的に有名な大学もあればそれほど高いレベルではない大学もあります。また、国によって英語が公用語レベルで通じる場所(オランダなど)から、ほとんど通じない国もあり、教授陣の英語レベルもさまざまです。研究内容だけであれば問題ない英語力でも、講義で話すとなるとそれなりの英語力が必要になりますが、英語が苦手な教授もそれなりにいるようです。

・スケジューリングなどが雑な場合もある
日本の大学院でも、教授の手違いで部屋が移動になったり講義がキャンセルされたりすることもありますが、同様のことは海外大学院でも起こり得ます。急遽授業がなくなったり、突然場所を移動することになったりというハプニングもあるようです。そこでクラスメートと協力して乗り切るのもある意味醍醐味かもしれません。

・修士のコースワークがある程度きつい
日本の修士は研究中心であるが故に講義やテストが大雑把なことも多いですが、コースワーク中心のヨーロッパの大学院はそうもいきません。講義も多くテストもあり、チームでのワークやその発表の機会も多いため、かなりの忙しさのようです。もちろんその分、クラスメートとの絆は深まりますし良い思い出ともなるはずです。日本の講義とは異なるということを意識し、仲間との助け合いを大事にすることで乗り切っていきましょう。

・EU外からの学生は積める経験に制約がかかることも
大学院で学生として受け入れられるのみであれば、制約を感じることはあまりないと思います。しかし、企業でインターンをしたいというように、外部で経験を積みたい場合にはEU外から来たということがネックになる場合もあります。税金や保険の関係上、書類手続きが煩雑になったり就労制限がかかったりするためです。実際にインターンをしたいと100社以上の会社に申し込み、面接まで進めたのが2~3社という先輩もいました。インターン内容も本意に沿わないことも出てくるようですね。大学院のラボに行く際には感じない制約も、外部の企業などとの交渉で不利になることで顕在化します。とはいえ、日本を含めEU外から来る学生にとってはヨーロッパの大学院で学ぶということそのものが素晴らしい経験となるはずです。大学院内のみで修士課程が完結する場合はそれほど気にならないかもしれません。

・共同生活が基本
大学院では寮が用意されていることが多いですが、他者との共同生活になるためその心づもりが必要です。日本で寮生活をしていた人であればそのハードルは低いでしょうが、一人暮らしや実家暮らしだと戸惑うこともあるでしょう。国籍や人種が異なる人たちと過ごすことを楽しむと、共同生活はメリットにもなります。

まとめ

ヨーロッパのコンソーシアム型の海外大学院である、EMJMDsは魅力的な制度が豊富です!特に、修士課程の2年間で少なくとも2カ国以上で暮らし、別々の大学院で講義を受けられることはとても貴重な経験となることでしょう。また、多様で国際的な人間関係を築くことはこの先の人生においても大きな財産になるはずです。もし少しでも興味があれば、是非ともEMJMDsについて調べてみてくださいね!

次の記事ではEMJMDsの入試情報についてより詳しく書いていきたいと思います。
博士課程での海外大学院進学に興味のある方はこちらもどうぞ。
それではまた!