スイスの街角でラーメンを打つ
こんにちは、管理人のおもちです〜
以前テストの願掛けの結果購入することになった製麺機ですが、ついにいい感じのラーメンが完成して喜んでいます。今回は、自分の情報収集も兼ねてラーメンの作り方を振り返っていきたいと思います。
ラーメンの材料
麺
海外ラーメン勢ライフハックの一つに、"パスタを重曹で茹でるとラーメンの麺になる"というのがあるのですが、複数回試しましたがそんなことはない…という結論に至りました。残念。
どの小麦粉を使えばいい?
結論から言うと、小麦粉はcoopにいつもあるWeissmehl(画像左)、そこに重曹Natron(画像右)を入れて、少量の塩を混ぜた粉を使って生地を作っています。
ラーメンの麺は通常、準強力粉または強力粉で作るようです。この小麦粉の違いはタンパク質の含有量から来るもので、ラーメンによく使われる小麦粉のタンパク質含有量は10~13%程度だそうです。
問題は、スイスの小麦粉カテゴリが日本のものと異なることです。上記を参考にすると、成分表示にあるタンパク質比率が10~13%程度であればいいはずで、上の画像に示した一般的な市販の小麦粉は12%でした。さすがパンの国、普通の小麦粉が強力粉なんですねえ….。
重曹の使い道
大事なことは、中華麺は麺の段階からアルカリ性になっており、これが他の麺との大きな違いです。本来はかん水と呼ばれる炭酸ナトリウムや炭酸カリウムなどを主成分としたアルカリ塩の溶解液を小麦粉に混ぜていくのですが、スイスでお手軽に手に入る代物ではないので重曹(炭酸水素ナトリウム:Natron)を使います。
上記のパスタのラーメン化トライアルは、茹で水をアルカリ性にすることで同じような効果を得ようというものだと思いますが、それだけではちょっと無理があるのではと思いました。(もし上手くいっている方がいればコツを伺いたいです)
トッピングと入手難易度
ラーメンのトッピングとしてよくあるものと、スイスでの入手難易度をみていきます。
難易度は簡単に手に入る食材を星1(★☆☆☆)、最も難しいものを星4で表しています(★★★★)。容易に入手できる星1の材料は近くの小〜中規模スーパー(coopやmigros)で購入できるもの、アジアスーパーに行かないと手に入らないものは星3、見たことないな….というものは星4です。
・チャーシュー用の塊肉(後述) (★★☆☆)
・煮卵用の卵 (★☆☆☆)
・ネギ (★☆☆☆)
・もやし (★☆☆☆)
・ほうれん草 (★★☆☆)
・キャベツ (★☆☆☆)
・玉ねぎ (★☆☆☆)
・ニンニク (★☆☆☆)
・コーン (★☆☆☆)
・バター (★☆☆☆)
・海苔 (★★☆☆)
・ごま (★☆☆☆)
・メンマ (★★★☆)
・なると (★★★☆)
・きくらげ (★★★★)
・ワンタン (★★★☆)
並べてみると、スイスの普通のスーパーで手に入る食材でもラーメンが作れそうです。最近はアジア料理コーナーも多く見られるようになっているので、中規模以上のスーパーでならより簡単に見つけられる食材もあるかと思います。
チャーシュー用のお肉&作り方
意外にもお肉選びで苦戦しました。というのも、いい感じの塊肉が見つからない。
肉選び
もともと鶏チャーシューでもいいし豚チャーシューでもいいしと思っていたのですが、それなりの厚みのあるお肉を見つけるのが(なぜか)難しかったです。結局駅の中にある中規模スーパーに行ったら厚みのある塊肉を発見したのでそれを使いました。
日本とのお肉の違いでよく言われるのは薄切り肉が存在しないことです。肉屋さんやスーパーの肉切りコーナーに行って注文するとOKしてもらえることもあると聞きます。
しかし今回、塊肉だしあるだろうと思っていたのですがなかなか見当たらないものですね…?また、スイスの人が赤身肉を好むからか、脂がはいったお肉を見つけるのも大変でした。
チャーシュー作り
面倒くさがり屋なので、レンジでできるチャーシューの作り方 (by DELISH KITCHEN)を参考にします。分厚めの塊肉だったので、タッパーに醤油ベースのタレを入れてフォークで穴を開けたお肉を漬け、片面ずつ8分チンした後にレンジの中で10分間放置して完成させました。
正直最初は硬いかな?と思ったのですが、全部薄切りにしてタレにつけておいたら2日後にはすごく柔らかくなっていました。よくわからないけどよかったなと思いました()。
スープ
これは好みですが、なにせ使える材料が限られるスイス国内。最低限、醤油・ニンニク・出汁の粉等あればシンプルなものはできると思います。醤油はバカ高いですが大きめのスーパーにも輸入品があります。
こちらで手に入れやすく値段も手頃なものでスープを作りたいのですが、洋風ラーメンみたいなカテゴリのものならいけるんでしょうか。以前都内でモッツァレララーメン?なるものを食べた記憶はあるので、そういった方面にも挑戦していきたいです。
製麺作業
麺の材料としては、小麦粉・重曹・食塩・水の4つです。これらの配合はどういった麺を作りたいかによりますが、あまり筋肉量のない人間としては固い生地は扱いづらく….。個人的にやりやすかった配合を書き留めます。
生地の作り方
ラーメンの麺は一人当たり150g前後が平均的なようです。使用する小麦粉を200g-250g程度に収めるのがやりやすく、これで1.5-2人前量ができます。
麺の種類
多加水麺と低加水麺があり、加水の標準である"小麦粉量に対して30-35%の水"よりも多いものを多加水麺、低いものを低加水麺と呼ぶそうです。多加水麺はモチモチとした食感でスープと絡みにくいためどろっとしたスープに合い、低加水麺は固くて歯ごたえがありスープを吸ってよく絡むと言われています。
低加水麺に関しては、いまだにどう作っていいのかよくわかってないです。全く生地がまとまらないのですが、多分袋に入れて足踏みしたりするべきなんでしょうね…? 私は腕が弱っちくてもまとまってくれる多加水麺を作りがちです。
作ってみた実際の麺
小麦粉 200g, 重曹 5g, 食塩 2g, 水 80gだと普通にこねていてもまとまってくれます。これで加水率40%です。スイスを含め欧州でよくある硬水と、日本の軟水による違いはきっとあるんでしょうが無視です。まとまらない場合は水を少しずつ足しました。
こね方やこの後の製麺作業などはYoutube(最強中華麺を自宅で作る by レシピチャンネル拉麺阿吽)をみて学びました。いろいろな方がラーメン作り動画をあげてくれているのですごく助かりました。
麺を複合・圧延してカットする
テスト合格祝いに衝動買いした製麺機、Marcato Atlas 150 Designの登場です。スイスで手に入るイタリア製の製麺機、当然通常パスタ仕様ですがラーメンでもいけるじゃろ、と思って買いました。
手動で生地を延ばしていき、最後は麺になるようにカットします。一番最初にやった時の写真ですが、今見るともっと生地と入れ方どうにかならんかったんかなと思います。
麺の茹で方
生麺を茹でる際は大きな泡が出るまできちんと沸騰した熱湯の中に放り込み、蓋をしてから1分で茹であげてちょうどいいのではと思いました。1分半でもすでにかなり柔らかくなると思います。
コツはとにかくお湯をきちんと沸騰させること。一度沸騰がイマイチな熱湯で茹でた麺を食べましたが、粉感が強くなってしまいました。
また、麺は冷蔵・冷凍保存のどちらもできますが、沸騰を持続させるためにも蓋をするのがいいと思います。同じ時間で茹で上げられました。吹きこぼれるくらい熱せている場合は蓋を外しても大丈夫です。
湯切りをしたらすぐに熱々のスープに入れてトッピングします。スープは、醤油、味噌、鶏白湯に加えてごまクリーム味噌スープ…?なるものを爆誕させましたが意外に美味しかったです。目指してたのは胡麻豆乳でした。
雑学:アルカリ性の生地がなぜ中華麺を中華麺たらしめるのか
同僚にラーメンの麺は他の麺とどう違うんだ?なんで重曹を入れるんだ?と聞かれたのがことの始まりです。
知らん….なんかアルカリ性にすると食感とか変わるらしい….というなんともボヤッとした返答をしたのですが、実際なんでなんだろうね?というのを調べました。
そもそも中華麺というと、黄色味が強く、麺にもよりますがもちもち(?)というか弾力のある食感がしますよね。また、茹でると独特な香りがして、ラーメンの香りだ〜と認識できます。
これらの色味、食感、香りの3つがなぜ他の麺と異なるのか、それがアルカリ性にすることとどう関係するのかが疑問でした。
色味
木下製粉株式会社さんのHPには、カルコンという物質が発生するそうです。人生の中で聞いたことがなかったので調べたところ、多くの植物や果実の中に含まれる天然の水溶性色素であるアントシアニンが、pH変化により異なる構造を持ったもののようです。
(引用:C. Rodrigues, et.al. 2021. “Bio-Based Sensors for Smart Food Packaging—Current Applications and Future Trends.” Sensors 21 (6): 2148.)
pHがアルカリによると、アントシアニンはフラビリウムイオンからカルコン構造に構造を変えます。その際に見える色は、青色-青緑色から黄色へ移り変わるようです。かなり強いアルカリ(pH13-)でないと黄色として見えないような結果もあったので、調べた範囲内ではpHの変化の範囲は溶媒にもよるのかなと思いました。
ラーメン作りにおいて重曹やかん水によるアルカリ性溶液で、そこまで色味に変化があるのかなあと疑問に思ったのが正直なところです。実際、市販の麺では黄色を出すために、クチナシからβ-カロテンを抽出して着色しているとの記載も見られました。
画像を引用した論文では生鮮食品の品質管理(ex.)魚の腐敗を検出する)への応用を論じていました。確かに天然の色素だとそういう使い方があるのかあ、と感心しました。
食感
“アルカリ性になるとグルテンの結合が増えるから固さが出る"という言説が、いくつかの会社や個人サイトで見られました。でもそれってどういうことなんだろう….。
疑問が解決しないままググったところ、アルカリが及ぼす麺の変化を検討した論文がいくつか見つかって笑ってしまいました。2019、2020年の論文は走査型電子顕微鏡で麺の状態を見ててめちゃくちゃ面白かったです。
そもそもグルテンとは
グルテンは小麦粉をこねていく中で形成されます。
小麦粉の中にあるグリアジン(粒)とグルテニン(網目)が、網目のなかに粒が入ったような構造の状態になることでグルテンとなります。グリアジンは粘性、グルテニンは弾性に寄与します。これがグルテンネットワークを作ることで、グルテンに両方の性質、粘弾性が付与されるようです (ref. 小麦と小麦粉の科学 高橋明弘)。
アルカリがグルテンに及ぼす影響
さて、そんなグルテンの結合に最も関連するのが、ジスルフィド結合(S-S)だとされています。含硫アミノ酸であるシステインにはスルフヒドリル基(-SH)が存在し、この酸化によりジスルフィド結合ができます。
アルカリ条件下では、スルフヒドリル基の酸化または SH–SS 交換反応によってジスルフィド結合の形成が促進されるようです。また、ジスルフィド結合のβ脱離反応が起こり、デヒドロアラニン (DHA) およびシステイン残基が生成されます。 DHAはさらにシステインと反応してランチオニン(LAN)を形成したり、pH値が10を超えるとリジンと反応してリシノアラニン(LAL)架橋を形成したりする、とありました。
(引用:L. J. Deleu, et.al. 2019. “The Impact of Alkaline Conditions on Storage Proteins of Cereals and Pseudo-Cereals.” Current Opinion in Food Science 25 (February): 98–103.)
構造をみた論文では、アルカリ性にすることでグルテニンに疎水結合が起こること、そしてグリアジンに負の電荷が起こることが示されていました(ref. C Han, M Ma, M Li, Q Sun. Food Hydrocolloids, 2020)。結果的に、構造がより密なものとなり、独特な歯ごたえにつながるようです。
香り
またまた木下製粉株式会社さんのHPから引用すると、"グルテンに含まれるグルタミンは、アルカリ性になると、「脱アミド」反応により、グルタミン酸になりますが、このときアミノ基は、アンモニアとして揮発し、これが中華麺特有の匂いとなります"とあります。
もう少し調べると、グルテンの中でグルタミンとアスパラギンが脱アミド化するようです。この時どちらのアミノ酸の側鎖からもアミノ基がおさらばしてアンモニアとして出ていきます。それが中華麺の香り、ということで良さそうです。
(引用:K. Hitomi, and R. Urade. 2019. Flour and Breads and Their Fortification in Health and Disease Prevention (Second Edition))
調べてる間に初めて知ったのですが、この反応で小麦粉の低アレルギー化を目指している論文がいくつかありました。確かに、グルテンの結合状態であったり側鎖の状態だったりが防御機構の認識に関わりそうだよなあ….と思った次第です。
おわりに:まともなラーメンをスイスで食べたい
実はスイスにもいくつかラーメン屋さんはあるのですが、日本人の間で評判になっていないことからそのクオリティは察すことができます。
ベルン駅にあるラーメン屋さんのメニューを見たことがありますが、ラーメンの上に餃子がのっていたり、サラダが乗っかっていたりして勘弁してくれと思いました。果敢にも挑戦した同僚からは、スープがぬるくて麺が伸びきっている、と散々な評価だったので行きません。
製麺機を手に入れたことで、安定した快適なラーメンライフを手に入れることができそうです。しかも、パートナーが日本からかん水を持ってきてくれたので大喜びです。今後いろいろなスープとトッピングを試していきたいと思います!
それではまた〜